「お師匠様はなぜ天竺に行くのですか。」孫悟空の問いに、猪八戒と沙悟浄も興味津々です。

「仏教の経典を求めに行くのだよ。特に唯識(ゆいしき)という一派のものが目的なのです。」

「なんだか難しそうですね。」

「人の心の仕組みを解き明かした経典なんだね。」

「簡単に説明すると、人の心の奥底には、まだ知られていない心があって、見たことや聞いたこと、考えたことなどがすべて溜まっていくというのです。」

「その溜まったものに影響を受けて、悪いことをする人は悪いことをするようになり、いいことをする人はいいことをするようになる、というのだね。」

「だから悟空はいつもカッとなって困るというけど、心がけ次第でカッとなることもなくなるのだよ。分かりましたか?」

全員が即座に答えました。「分かりません!」

「また堺の商人の屋敷に強盗が押し入ったそうです。」飢饉による庶民の暴動に、寺奉行親当(ちかまさ)は対応に追われていました。

「大名や商人は富を蓄えておるのだから、その分庶民に施しをすればよいのにな。」

「一休殿はそうおっしゃいますが、彼らがそのような損をすることはしないでしょう」

「易には山沢損と風雷益という掛(か)があってな、上の者が下の者に、下の者が上の者に、それぞれ施すことで益を得る。何かを得るためには何かを失う必要がある、という道理を教えるものじゃ。」

「得ることばかり考えるので、強盗に襲われはせんかと、心配せねばならんようになるんじゃがの。」