「また堺の商人の屋敷に強盗が押し入ったそうです。」飢饉による庶民の暴動に、寺奉行親当(ちかまさ)は対応に追われていました。

「大名や商人は富を蓄えておるのだから、その分庶民に施しをすればよいのにな。」

「一休殿はそうおっしゃいますが、彼らがそのような損をすることはしないでしょう」

「易には山沢損と風雷益という掛(か)があってな、上の者が下の者に、下の者が上の者に、それぞれ施すことで益を得る。何かを得るためには何かを失う必要がある、という道理を教えるものじゃ。」

「得ることばかり考えるので、強盗に襲われはせんかと、心配せねばならんようになるんじゃがの。」