見て見ぬふりもときには必要じゃぞ

新右衛門さんと部下の辰之介さんが、何やら言い争いをしながら歩いています。

「新右衛門殿、一体どうしたのじゃ?」

「これは一休様、辰之助が同僚の総一郎と揉め事をおこしたので、諌めていたのです。」

「揉め事ではありません。総一郎の担当する寺社が食い逃げした者をかくまっていて、やつはそのことを知っていたのに見逃していたのです。」

「総一郎は、その者にはやむにやまれぬ事情があった、と言っているのだろう。」

「どんな事情があろうと罪は罪です。」

「まあまあ、ちょっとお待ちなさい。

辰之助殿。確かに食い逃げは絶対に良くないことじゃ。しかしな、易にはときには見て見ぬふりをすることも大事だ、という教えがあるんじゃよ。

雷沢帰妹という結婚に関する卦の中にある話での、中国では昔、嫁ぐ女性が血縁の女性を従えて行ったそうなんじゃ。

その女性が賢明であれば、自分の立場をわきまえ、見て見ぬふりをし、知って知らぬふりをすることで、夫や正妻、そして結局は自分のためにもなるということを教えているのじゃな。」

悪いばかりの卦などないのじゃ

一休さんがよく立ち寄るめし屋の看板娘、おみっちゃんが一休さんの所に相談に来ました。

「一休様、易者さんに結婚のことを占ってもらったら、天風姤という卦が出ちゃった。よくない卦なんでしょう?」

「一般的にはそう言われておるな。

全部陰の坤為地にひょっこり陽の爻が現れる地雷福がめでたい卦で、その反対に、全部陽の乾為天に陰の爻が現れる。

平和だった町内にひょっこり地獄太夫が現れた、みたいな。」

「あたしがひょっこり現れたらなんだって言うのよ?」

「わっ、びっくりした。いつからそこにおったのじゃ。」

「いま来たところよ。」

「そ、そうか。今おみっちゃんに易の話をしていたところじゃ。おまえさんも一緒にお聞き。

天風姤という卦は一概に悪いことばかりではないぞ。

なくしてあきらめていたものがひょっこり出てくるとか、縁がないと思っていた結婚が玉の輿に乗るとか・・・。

いつも言っておるが、悪いばかりの卦はない、ということじゃな。おみっちゃん、安心おし。」

損をしてもいいではないか

弟子たちが何やら言い争いをしています。

「お前たち、何をしておるのじゃ。」

「羊羹をいただいたのですが、どうやって分けるか決まらないのです。」

「そんなこと、どうでもいいではないか。」

「損をしたくないではありませんか。」

「易には山沢損という卦があってな、下のものは上の者に分け与えることによって後々の利益を得るという教えがあるのじゃぞ。例えば税金などがそれに当たるな。

一方で風雷益という卦もあってな、逆に上のものは下の者に・・・という教えじゃ。政府が与えることによって国がよく治まれば政府も利益を得たわけじゃ。

どうじゃ。損をしてもいいと思えぬか?」

「ジャンケンポン」「勝った、じゃあ俺はこれ・・・」

「話を聞かんかーい!」