内裏からの指示で、定期的に一休さんにお米やお酒を届けている桔梗屋の番頭さんが、何やらブツブツつぶやきながら歩いています。
「番頭さん、どうされました。」
「これは一休様。実は帳簿の計算が十両ほど足りませんで、また若旦那の仕業かと困っているのです。」
「若旦那の仕業と決まったわけではないのでしょう。」
「いつもニセ易者などに騙されてまして、”折り入ってお話が・・・”なんて切り出した日にゃ、必ずお金の工面なんですよう。」
「そうやって申告しているわけで、盗んだことはないんでしょう?」
「それはそうなんですが・・・。」
「番頭さん、易経に風沢中孚(ふうたくちゅうふ)という卦がありましてな、孚という字は”まこと”、すなわち”信”であると。
そして信さえあれば人はついてくるし、信でもって人を正道に導きなさい、と説いてあります。
仏教にも信の心所という教えがありましてな、人には本来、心を清らかにしていくという心があって、その心があることを理解しようと努めて、あとは仏様におまかせしなさい、と。
どうじゃろう、若旦那も信の心で見てみては。」
「一休様のおっしゃるとおりかも知れません。」
「番頭さーん。」
「あっ、若旦那。」
「折り入ってお話が・・・。」