見て見ぬふりもときには必要じゃぞ

新右衛門さんと部下の辰之介さんが、何やら言い争いをしながら歩いています。

「新右衛門殿、一体どうしたのじゃ?」

「これは一休様、辰之助が同僚の総一郎と揉め事をおこしたので、諌めていたのです。」

「揉め事ではありません。総一郎の担当する寺社が食い逃げした者をかくまっていて、やつはそのことを知っていたのに見逃していたのです。」

「総一郎は、その者にはやむにやまれぬ事情があった、と言っているのだろう。」

「どんな事情があろうと罪は罪です。」

「まあまあ、ちょっとお待ちなさい。

辰之助殿。確かに食い逃げは絶対に良くないことじゃ。しかしな、易にはときには見て見ぬふりをすることも大事だ、という教えがあるんじゃよ。

雷沢帰妹という結婚に関する卦の中にある話での、中国では昔、嫁ぐ女性が血縁の女性を従えて行ったそうなんじゃ。

その女性が賢明であれば、自分の立場をわきまえ、見て見ぬふりをし、知って知らぬふりをすることで、夫や正妻、そして結局は自分のためにもなるということを教えているのじゃな。」