虎と戦ってもボロボロになるだけじゃよ

一休さん一行が近所の飯屋の前を通ったところ、ちょうどおみっちゃんが接客をしている最中でした。

一休「おみっちゃん、何だか疲れ切った顔をしておるな、大丈夫か?」

おみつ「また、おとっつぁんと激しくやり合っちゃって・・・。」

一休「おとっつぁんも癇癪持ちだからのう。」

おみつ「あたしも、ついカッとなって言い返すからいけないんでしょうけど、何とか穏やかに過ごせる方法はないものでしょうか。」

一休「お釈迦様は、理不尽な物言いをする者や喧嘩腰の態度の者には、ただ黙ってそれを受け取らないようにしなさい、それはその者に返って行くから、とおっしゃっているな。

そうやって穏やかな心を保つことができれば、普段通り接すればいいのじゃよ。」

おみつ「なるほどねー。」

一休「易には、虎のような強剛な者に対しても、礼を持って接するならば、誤ってその尾を踏んだとしても、危害を加えられるようなことはない、という教えがあるんじゃよ。」

強い者ばかりではないぞ・・・その二

一休「沢水困、困しみ難やむ(くるしみなやむ)という意味の卦の初爻じゃ。」

念知「ひえー、一休様どうすればいいのでしょう?」

一休「これは四大難卦の一つじゃな。」

念知「ひえー、どうすれば・・・。」

一休「困難窮乏に耐えられず、妄動するたびに悪くなっていく、そういうときじゃ。

しかしそれを辛抱してぐっと踏みとどまれ。それが最善策じゃ。」

念知「・・・。」

一休「明日になれば運気は変わる。それまでの辛抱じゃ。運気の移り変わりは全ての者に平等じゃ。念知、分かるな。」

念知「はい・・・。みなさんも同じなのですね。」

森女「一休様、このような子もいるのですね。易の有用なことも分かる気がします。」

強い者ばかりではないぞ・・・その一

一休さんと森女が易について話しています。

森女「一休様、私は占いに興味がありません。今日はいい日、悪い日、と言われてもそれでどうすればいいの、と思ってしまうのです。」

一休「森女ちゃんは強いからそのようなことが言えるのじゃよ。念知はおるか?」

念知「何でございましょう。」

一休「森女ちゃん、こやつは不安の病(不安神経症ですね)にかかっておっての、達磨大師様から不安をここに持って来いと言われて、こやつをポンと差し出せば”本当に持ってきよった!”と驚かれるくらいなんじゃ。」

念知「私で遊ばないでください。」

一休「念知、お前の今日の運気を占ってやったぞ。」

念知「ど、どんな結果だったのですか?」

若いときに易を知っていればよかった

桔梗屋の番頭さんが、いつものお届け物をもって一休さんのところへやって来ました。

番頭「一休様、今月のお米とお酒をお持ちしました。」

一休「いつもすまんのう。ところで、易の勉強は進んでおるかの。」

森女「あら番頭さん、易を学んでいるのですか。」

番頭「はい。一休様に教えていただいているのです。

先日は水地比、人様と親しむという卦を教えていただきました。

そしてその三爻に、そのようなときに遅れてくる者は何か魂胆があるということ。

昨日は天地否、天地が交わらない、物事がうまくいかないという卦。

そしてその五爻は、そのようなときにやっと光が見えてきた。

しかし、「それ亡びなんそれ亡びなん」と自戒しながら、油断せずに進めと。

本当にその通りだなぁ、といつも感心します。

今まで失敗ばかりしてきましたので、若いときに易を知っていればな、と後悔しております。」

関連する占いで同じ卦が出る不思議

新右衛門さんが手土産を持って一休さんを訪ねてきました。

天知「一休様、新右衛門さん何やら嬉しそうですね。」

一休「先日、仕事や家庭のことでテンパっておってな、相談に乗るついでに易を立ててやったのじゃよ。」

新右衛門「そうなんですよ。山火賁(ひ)の初九が出ましてな。見栄や虚勢を張らずに、身の丈にあった目標などを立ててはどうか、とご助言いただいたのです。」

一休「数日後、現状を占ってみると山火賁の上九を得てな、落ち着きを取り戻して運気好転と出た。」

天知「同じ卦とは、これまた不思議ですね。」

一休「長いこと易をやっていると、そのような不思議なことも起きるものじゃよ。」

時には賢く逃げてもよいのじゃ

桔梗屋の若旦那と新右衛門さんの部下、辰之介さんがやって来ました。

一休「お二人揃ってどうされました。」

若旦那「辰之介さんが難しい顔をして歩いていたものですから、悩みがあるなら一休様に相談されては、とお連れしたのです。」

辰之介「担当している案件がことごとく暗礁に乗り上げておりまして、困り果てております。」

一休「易には天山遯という卦がありましてな、一旦遯(のが)れる効用を説いておりますのじゃ。

遯れるといっても逃げるわけではなく、力を養い、好機が来るまで待つということ。

辰之介さんもここは一旦遯れて英気を養ってみては。そうしている間に、良い考えも浮かんで来ましょう。」

天知「上爻の”遯れて泰然と遊ぶ”など、一休様そのものではないですか。」

一休「わはは、そうじゃな。それはわしのためにあるな。」

森女「わははじゃありません。」

一休「森女ちゃんにはかなわんから、たんに逃げよう。」

若旦那「私も遯れて、好機が来るまで待つとしましょう。」

一同「あんたは遯れんでよろしい。」

信がなければ人間関係うまくいかなくなるぞ

内裏からの指示で、定期的に一休さんにお米やお酒を届けている桔梗屋の番頭さんが、何やらブツブツつぶやきながら歩いています。

「番頭さん、どうされました。」

「これは一休様。実は帳簿の計算が十両ほど足りませんで、また若旦那の仕業かと困っているのです。」

「若旦那の仕業と決まったわけではないのでしょう。」

「いつもニセ易者などに騙されてまして、”折り入ってお話が・・・”なんて切り出した日にゃ、必ずお金の工面なんですよう。」

「そうやって申告しているわけで、盗んだことはないんでしょう?」

「それはそうなんですが・・・。」

「番頭さん、易経に風沢中孚(ふうたくちゅうふ)という卦がありましてな、孚という字は”まこと”、すなわち”信”であると。

そして信さえあれば人はついてくるし、信でもって人を正道に導きなさい、と説いてあります。

仏教にも信の心所という教えがありましてな、人には本来、心を清らかにしていくという心があって、その心があることを理解しようと努めて、あとは仏様におまかせしなさい、と。

どうじゃろう、若旦那も信の心で見てみては。」

「一休様のおっしゃるとおりかも知れません。」

「番頭さーん。」

「あっ、若旦那。」

「折り入ってお話が・・・。」

見て見ぬふりもときには必要じゃぞ

新右衛門さんと部下の辰之介さんが、何やら言い争いをしながら歩いています。

「新右衛門殿、一体どうしたのじゃ?」

「これは一休様、辰之助が同僚の総一郎と揉め事をおこしたので、諌めていたのです。」

「揉め事ではありません。総一郎の担当する寺社が食い逃げした者をかくまっていて、やつはそのことを知っていたのに見逃していたのです。」

「総一郎は、その者にはやむにやまれぬ事情があった、と言っているのだろう。」

「どんな事情があろうと罪は罪です。」

「まあまあ、ちょっとお待ちなさい。

辰之助殿。確かに食い逃げは絶対に良くないことじゃ。しかしな、易にはときには見て見ぬふりをすることも大事だ、という教えがあるんじゃよ。

雷沢帰妹という結婚に関する卦の中にある話での、中国では昔、嫁ぐ女性が血縁の女性を従えて行ったそうなんじゃ。

その女性が賢明であれば、自分の立場をわきまえ、見て見ぬふりをし、知って知らぬふりをすることで、夫や正妻、そして結局は自分のためにもなるということを教えているのじゃな。」

悪いばかりの卦などないのじゃ

一休さんがよく立ち寄るめし屋の看板娘、おみっちゃんが一休さんの所に相談に来ました。

「一休様、易者さんに結婚のことを占ってもらったら、天風姤という卦が出ちゃった。よくない卦なんでしょう?」

「一般的にはそう言われておるな。

全部陰の坤為地にひょっこり陽の爻が現れる地雷福がめでたい卦で、その反対に、全部陽の乾為天に陰の爻が現れる。

平和だった町内にひょっこり地獄太夫が現れた、みたいな。」

「あたしがひょっこり現れたらなんだって言うのよ?」

「わっ、びっくりした。いつからそこにおったのじゃ。」

「いま来たところよ。」

「そ、そうか。今おみっちゃんに易の話をしていたところじゃ。おまえさんも一緒にお聞き。

天風姤という卦は一概に悪いことばかりではないぞ。

なくしてあきらめていたものがひょっこり出てくるとか、縁がないと思っていた結婚が玉の輿に乗るとか・・・。

いつも言っておるが、悪いばかりの卦はない、ということじゃな。おみっちゃん、安心おし。」

損をしてもいいではないか

弟子たちが何やら言い争いをしています。

「お前たち、何をしておるのじゃ。」

「羊羹をいただいたのですが、どうやって分けるか決まらないのです。」

「そんなこと、どうでもいいではないか。」

「損をしたくないではありませんか。」

「易には山沢損という卦があってな、下のものは上の者に分け与えることによって後々の利益を得るという教えがあるのじゃぞ。例えば税金などがそれに当たるな。

一方で風雷益という卦もあってな、逆に上のものは下の者に・・・という教えじゃ。政府が与えることによって国がよく治まれば政府も利益を得たわけじゃ。

どうじゃ。損をしてもいいと思えぬか?」

「ジャンケンポン」「勝った、じゃあ俺はこれ・・・」

「話を聞かんかーい!」